
2012年に公開された映画『のぼうの城』は、戦国時代末期、天下統一を目指す豊臣秀吉の前に立ちはだかった「浮き城」こと忍城(おしじょう)を舞台にした歴史スペクタクル大作です。狂言師・野村萬斎が演じる、領民から「のぼう様(でくのぼうの意)」と呼ばれる不思議な魅力を持つ城代・成田長親が、石田三成率いる2万の大軍を相手に、わずか500の兵で無謀な戦いを挑む姿を描いています。犬童一心監督と樋口真嗣監督のダブル監督体制、豪華すぎるキャスト陣、そして圧巻の水攻めシーンが大きな話題となりました。
この記事では、映画『のぼうの城』の主要キャストと複雑な人間関係がわかる相関図、そして結末までを含む詳細なあらすじを徹底的にネタバレ解説します。
記事のポイント
- 基本情報・キャスト・あらすじ・見どころを整理
- 野村萬斎演じる主人公・成田長親と豪華キャスト陣(佐藤浩市、榮倉奈々ほか)の役どころを紹介
- 豊臣秀吉の天下統一を背景にした忍城(おしじょう)の水攻めを描く歴史スペクタクル
- 原作小説(和田竜)との違いや、映画の評価・感想(「ひどい」「つまらない」という意見はなぜか)
- U-NEXTやAmazonプライムなど動画配信サービスでの視聴方法(最新は公式で確認)
【映画】『のぼうの城』キャスト・相関図・あらすじをネタバレ

チェックポイント
- 2012年に公開された犬童一心・樋口真嗣監督作品
- 和田竜のベストセラー小説が原作の歴史エンターテイメント
- 主演・野村萬斎が「のぼう様」こと成田長親を演じる
- 石田三成率いる2万の軍勢と忍城の500の兵の戦い
- 豪華すぎるキャスト陣と彼らが演じる個性的なキャラクター
『のぼうの城』とは?公開日・基本情報(原作:和田竜)
映画『のぼうの城』は、2012年11月2日に公開された日本の歴史映画です。TBS開局60周年記念作品として、アスミック・エースと東宝の共同配給で公開されました。
原作は、本作の脚本も手掛けた和田竜による同名の歴史小説です。この小説は、2003年に城戸賞を受賞した脚本「忍ぶの城」を基に小説化したもので、2007年に刊行されると、そのエンターテイメント性の高さからベストセラーとなり、2009年の本屋大賞で第2位に選ばれるなど高い評価を受けました。
監督は、『ジョゼと虎と魚たち』などで知られる犬童一心と、『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』などで知られる樋口真嗣の異色のダブル監督体制が取られました。犬童監督が主に人間ドラマを、樋口監督が特撮技術を駆使した合戦や水攻めシーンといったスペクタクル部分を担当し、見事な融合を果たしています。
物語の舞台は、天正18年(1590年)、豊臣秀吉が天下統一の総仕上げとして北条氏を攻めた「小田原征伐」。秀吉は関東各地の北条方の支城も同時に攻略させますが、その中の一つ、武州・忍城(埼玉県行田市)だけが、石田三成率いる大軍の猛攻、特に日本戦国史上類を見ない「水攻め」に耐え、本城である小田原城が陥落するまで持ちこたえたという史実に基づいています。
主演に狂言師の野村萬斎を迎え、佐藤浩市、山口智充、成宮寛貴(当時)、榮倉奈々、上地雄輔、山田孝之、市村正親といった超豪華なキャストが集結。主題歌にはエレファントカシマシの「ズレてる方がいい」が起用されました。
壮大なスケールとユニークな主人公像、手に汗握る攻防戦、そして胸を打つ人間ドラマが多くの観客の心を掴み、最終興行収入28.4億円を記録する大ヒットとなりました。
主要キャストと登場人物一覧(成田長親、石田三成、甲斐姫ほか)
映画『のぼうの城』は、その「豪華すぎる」と評されるキャスティングが大きな魅力の一つです。主人公から脇役、果ては農民役に至るまで、実力派俳優が名を連ねています。
【忍城・成田軍】
- 成田長親(なりた ながちか): 野村萬斎
- 本作の主人公。忍城城代。領民からは「のぼう様(でくのぼうの意)」と呼ばれ慕われる。智も仁も勇もないが、誰もが心を許してしまう不思議な「人気」を持つ。
- 正木丹波守利英(まさき たんばのかみ としひで): 佐藤浩市
- 忍城筆頭家老で「漆黒の魔人」と異名を取る武の達人。長親の幼馴染で、彼の最大の理解者。
- 柴崎和泉守(しばさき いずみのかみ): 山口智充
- 忍城家老。豪放磊落な豪傑で、丹波をライバル視している。
- 酒巻靱負(さかまき ゆきえ): 成宮寛貴
- 忍城家老。自称「軍略の天才」だが、戦の経験はない。若さゆえの焦りも見せるが、次第に成長していく。
- 甲斐姫(かいひめ): 榮倉奈々
- 城主・成田氏長の娘(史実では氏長の娘だが、本作では従妹(長親の父・泰季の兄の娘)という設定に近い描写)。男勝りの気性で、長親に淡い想いを寄せている。
- 成田氏長(なりた うじなが): 西村雅彦
- 忍城城主。北条氏に味方し、小田原城に籠城中。長親に城代を任せる。
- 成田泰季(なりた やすすえ): 平泉成
- 長親の父。病床にあり、息子の将来を案じている。
- 珠(たま): 鈴木保奈美
- 氏長の妻(原作では氏長の弟・長泰の妻)。甲斐姫の継母的な存在。
- たへえ: 前田吟
- 忍城下の農民。長親を心から慕い、戦いにも参加する。
- かぞう: 中尾明慶
- 忍城下の農民。たへえと共に戦う若者。
- ちよ: 尾野真千子
- かぞうの妻。
- ちどり: 芦田愛菜
- かぞうとちよの娘。長親に懐いている。
【豊臣軍】
- 石田三成(いしだ みつなり): 上地雄輔
- 豊臣秀吉の家臣で、忍城攻めの総大将。若く有能だが、功を焦り、プライドが高い一面を持つ。
- 大谷吉継(おおたに よしつぐ): 山田孝之
- 三成の親友であり補佐役。常に冷静沈着で、的確な助言を行うが、三成は聞く耳を持たないことが多い。
- 長束正家(なつか まさいえ): 平岳大
- 三成と共に忍城攻めを担当する武将。傲慢な性格で、忍城側を見下している。
- 豊臣秀吉(とよとみ ひでよし): 市村正親
- 天下統一を目前にした関白。圧倒的なカリスマと恐ろしさを併せ持つ。
- 和尚(おしょう): 夏八木勲
- 忍城近くの寺の和尚。長親の相談相手であり、戦の行方を見守る。
登場人物の関係性がわかる相関図
『のぼうの城』の物語を理解する上で、登場人物たちの関係性(相関図)を把握することは非常に重要です。本作の相関図は、大きく「忍城(成田軍)」と「豊臣軍」の対立構造を軸に、それぞれの内部の人間関係が描かれています。
【忍城側の相関図】
物語の中心は、総大将の**成田長親(野村萬斎)**です。彼は城主・**成田氏長(西村雅彦)から城代を任されていますが、その評価は「でくのぼう」。しかし、領民のたへえ(前田吟)やちどり(芦田愛菜)**からは絶大な人気を誇っています。
長親を支えるのが、個性豊かな3人の家老(侍大将)です。
筆頭家老の**正木丹波守(佐藤浩市)**は、長親の幼馴染であり、彼の常人には理解しがたい器の大きさを唯一見抜いている人物です。武勇に優れ、「漆黒の魔人」として豊臣軍にも名が知られています。
**柴崎和泉守(山口智充)**は、丹波をライバル視する豪傑。考えるより先に体が動くタイプですが、領民を守るという意志は強いです。
**酒巻靱負(成宮寛貴)**は、自称「軍略の天才」。口先ばかりで実戦経験はありませんが、軍議では(的外れながらも)意見を述べ、物語のコミカルな側面と若者の成長を担います。
ヒロインの**甲斐姫(榮倉奈々)**は、長親の従妹(またはそれに近い親戚)であり、男勝りな性格。長親のふがいなさに苛立ちながらも、彼に惹かれている複雑な乙女心を抱えています。
この忍城側は、正規の兵はわずか500。しかし、長親を慕う領民たちが数千人規模で籠城に参加し、一大勢力となって豊臣軍に対抗します。
【豊臣軍側の相関図】
忍城を攻める豊臣軍の総大将は、**石田三成(上地雄輔)です。彼は主君である豊臣秀吉(市村正親)**から忍城攻略を命じられますが、その背景には「戦を知らない三成に手柄を立てさせる」という秀吉の意図がありました。
三成の陣中には、親友の**大谷吉継(山田孝之)と、同僚の長束正家(平岳大)**がいます。吉継は冷静な戦略家で、三成の短絡的な思考を度々諫めますが、功を焦る三成は耳を貸しません。二人の友情とすれ違いも、本作の重要なドラマの一つです。一方、正家は典型的な「威を借る狐」タイプの武将で、忍城への降伏勧告の使者として赴いた際、その傲慢な態度が長親の逆鱗に触れ、籠城戦の引き金となります。
この「2万の最新鋭の軍団(豊臣軍)」対「500の侍と数千の領民(忍城側)」という圧倒的な戦力差、そしてそれぞれの総大将である三成(プライドと功名心)と長親(人望と無欲)の対比が、この物語の核心となっています。
映画のあらすじ(起承転結)をネタバレ解説
映画『のぼうの城』の物語は、史実の「忍城の戦い」をベースに、和田竜による大胆な脚色とエンターテイメント性を加えて展開されます。結末を含むあらすじを、起承転結に分けて詳細にネタバレ解説します。
【起】天下統一と「のぼう様」
天正18年(1590年)、豊臣秀吉(市村正親)による天下統一の総仕上げ、「小田原征伐」が始まりました。関東一円を支配する北条氏政(中原丈雄)は小田原城に籠城。秀吉は20万を超える大軍でこれを包囲し、さらに北条方の支城を次々と攻略していきます。
武蔵国にある忍城も、北条方の支城の一つでした。城主・成田氏長(西村雅彦)は、他の北条家臣同様、小田原城に籠城しており、城代として留守を任されていたのが、氏長の従弟(映画では明確な言及は避けているが親戚)にあたる成田長親(野村萬斎)でした。
長親は、領民たちと泥だらけになって田植えを手伝うような男ですが、不器用で何の役にも立たないため、領民からは「でくのぼう」を略して「のぼう様」と呼ばれていました。しかし、その不思議な人柄から領民には異常なまでに慕われていました。一方、家臣の酒巻靱負(成宮寛貴)や甲斐姫(榮倉奈々)からは、その頼りなさを呆れられていました。
【承】開戦の決意
秀吉は、寵臣である石田三成(上地雄輔)に、戦の手柄を立てさせるため、忍城攻めの総大将を命じます。三成は、親友の大谷吉継(山田孝之)、同僚の長束正家(平岳大)と共に、2万の大軍を率いて忍城へ進軍します。
忍城側では、筆頭家老の正木丹波守(佐藤浩市)らが軍議を開きますが、敵は2万、味方は侍500。誰もが降伏(開城)やむなしと考えていました。長親も「皆で今までと同じように暮らせないかなあ」と呑気なことを言うばかり。
しかし、降伏勧告の使者としてやってきた長束正家が、あまりに傲慢な態度で忍城側を侮辱します。さらに、長親に向かって「この城の者どもは、貴様(長親)のようなでくのぼうが城代であるから、戦わずして降伏するのだろう」と嘲笑します。
その言葉を聞いた瞬間、それまで何を言われてもヘラヘラしていた長親の表情が一変します。彼は静かに立ち上がり、正家に向かって言い放ちます。
「戦いまする。この城、この民、わしが守りまする」
長親の思いもよらない決断に、丹波、柴崎和泉守(山口智充)、靱負ら家臣たちも驚きますが、やがて覚悟を決めます。長親を慕う領民たちも「のぼう様が戦うならわしらも!」と立ち上がり、忍城は500の兵に加え、数千の領民が立てこもる前代未聞の籠城戦へと突入します。
【転】水攻めと「田楽踊り」
戦いが始まると、忍城軍は予想外の奮戦を見せます。丹波の騎馬鉄砲隊、和泉守の豪腕、そして「浮き城」と呼ばれる沼地に囲まれた地の利を活かし、三成軍の猛攻をことごとく撃退します。総大将の長親は、本丸でただオロオロするばかりでしたが、彼の存在そのものが城兵たちの士気を高めていました。
連戦連敗にいら立つ三成は、秀吉がかつて備中高松城を攻略した「水攻め」を行うことを決断します。吉継は「この地は高松城とは違う」と反対しますが、三成は聞き入れません。三成は莫大な金で近隣の農民を雇い、忍城の周囲に全長28kmにも及ぶ巨大な堤(のちの「石田堤」)をわずか数日で築き上げます。
利根川と荒川の水が引き込まれ、忍城は城下町ごと水没。城兵と領民は、高台にある本丸へと避難しますが、水かさは増すばかり。「浮き城」は完全に孤立し、城内の士気は絶望的に低下します。
この絶対絶命の状況で、長親は「わしに策がある」と宣言します。丹波らに「もしわしが死んだら、城を明け渡してほしい」と告げると、彼は一艘の小舟に乗り、敵が目の前にいる堤の真ん前まで漕ぎ出します。
三成軍が「総大将が出てきたぞ」と弓や鉄砲を構える中、長親は舟の上で、なんと田楽踊りを舞い始めます。あまりに突拍子もない行動に、両軍はあっけに取られます。しかし、狂言師でもある野村萬斎が演じる長親の舞は、次第に人々を魅了していきます。滑稽でありながらも神聖さすら漂うその姿に、敵である豊臣軍の兵士たちまでもが、武器を降ろし、手拍子を打ち、踊りに見入ってしまいます。
この異様な光景に、総大将の三成は激昂します。「あやつを撃て!」と叫び、鉄砲隊に長親を狙撃させます。銃弾が長親の体を貫き、彼は水中に倒れます。
【結】戦の終わりと「浮き城」の行方(ネタバレ)
「のぼう様が撃たれたぞ!」
その報は、本丸の領民たちに伝わります。自分たちのために命を張って踊った長親の姿に心を打たれた領民たちは、怒りと悲しみで我を忘れ、狂ったように堤に向かって走り出します。そして、武器も持たずに、素手で石田堤を破壊し始めます。
決壊した堤からは濁流が溢れ出し、水攻めは失敗。逆に豊臣軍の陣地が洪水に見舞われ、大混乱に陥ります。長親は丹波らによって救出され、一命を取り留めます。忍城は、事実上、三成軍に勝利したのです。
しかし、その直後、忍城に早馬が到着します。それは、本城である小田原城が、秀吉に降伏したという報せでした。
北条氏が降伏した今、忍城が戦い続ける理由はなくなりました。長親は、城兵と領民の命を守るため、静かに開城することを決断します。
後日、長親は秀吉の前に引き出されます。秀吉は、2万の大軍を手玉に取った「のぼう」に興味津々でしたが、目の前に現れた長親は、ただヘラヘラと笑うばかりの、まさに「でくのぼう」でした。しかし秀吉は、その底の知れない器の大きさを感じ取ります。
一方、忍城攻めに失敗し、面目を失った三成は、親友の吉継に「わしは、あやつ(長親)に負けたのだ」と、初めて自分の敗北を認めるのでした。
戦が終わり、領民たちが田植えを再開する中、回復した長親もまた、泥だらけになって田んぼにいます。相変わらず不器用で邪魔扱いされていますが、その姿は領民たちにとって、かけがえのない「のぼう様」のままでした。
「でくのぼう(のぼう様)」と呼ばれた主人公・成田長親(野村萬斎)の実像
本作の最大の魅力は、なんといっても主人公・成田長親のキャラクター造形と、それを演じた野村萬斎の圧倒的な存在感にあります。
従来の歴史映画の主人公といえば、織田信長や真田幸村のような、カリスマ性や卓越した知略・武勇を持つ英雄が定番でした。しかし、本作の長親は、その真逆です。
- 武勇: まったくありません。戦が始まっても本丸でオロオロするばかりです。
- 知略: ありません。軍議では的外れなことしか言いません。
- カリスマ: ありません。家臣からは「でくのぼう」と侮られています。
彼が唯一持っている武器は、その「人望」あるいは「人気」だけです。領民たちは、長親が偉ぶらず、常に自分たちと同じ目線に立ち、泥だらけになることを厭わない姿を見ています。彼らは、長親が「自分たちの苦しみを理解してくれる唯一の侍」であることを肌で感じ取っており、だからこそ「のぼう様のためなら」と命を懸けて戦うのです。
この「何も持たないが、最も大切なもの(民の心)を持っている」というユニークな主人公像を、狂言師である野村萬斎が演じたことは、本作の最大の勝因と言えるでしょう。
特にクライマックスの「田楽踊り」のシーンは、野村萬斎の真骨頂です。もしこのシーンを通常の俳優が演じていたら、ただの滑稽な場面、あるいはリアリティのない奇策として観客は白けてしまったかもしれません。
しかし、日本の伝統芸能の第一人者である野村萬斎が舞うことで、その所作一つ一つに意味が宿り、滑稽さの中にも神聖さや凄みが生まれました。2万の大軍が、たった一人の男の「芸」によって戦意を喪失するという、荒唐無稽とも思える展開に、圧倒的な説得力を持たせることに成功しています。
史実の成田長親は?
史実の成田長親も、映画や原作のように「でくのぼう」と呼ばれていたかどうかは定かではありませんが、巨漢であったこと、そして忍城攻防戦で城代として指揮を執ったことは事実です。そして、映画のラストでも触れられたように、戦後、秀吉に謁見した際、その人物を気に入られ、所領(のちに1万石)を与えられ大名として存続しました。このことからも、単なる「でくのぼう」ではなく、人を惹きつける非凡な何かを持った人物であったことは間違いないでしょう。
石田三成(上地雄輔)や大谷吉継(山田孝之)ら豊臣軍のキャスト
『のぼうの城』は、忍城側だけでなく、敵役である豊臣軍側のキャストも非常に魅力的であり、彼らのドラマも物語の重要な柱となっています。
石田三成(上地雄輔)
本作における三成は、いわゆる「悪役」ではありますが、単純な悪人として描かれているわけではありません。彼は秀吉の寵臣として高い能力を持っていますが、同時に若さゆえの功名心、プライドの高さ、戦経験の不足といった弱さも抱えています。
上地雄輔は、その「完璧ではない、人間臭いエリート」としての三成を演じました。忍城を「田舎の小城」と侮り、正攻法で簡単に落ちると高を括っていましたが、長親らの予想外の抵抗に遭い、次第に冷静さを失っていきます。
特に、水攻めという大事業を強行する姿は、彼の焦りと、秀吉(=絶対的な権力者)の成功体験(備中高松城)に囚われる未熟さの表れとして描かれています。クライマックスで長親の田楽踊りを見て激昂するシーンは、合理主義者である三成が、自分の理解を超えた「人気」という非合理な力に直面した際の混乱と敗北を象徴しています。
この三成の描写については、後述するように賛否両論も呼びましたが、従来の「冷静沈着な能吏」や「奸臣」といったイメージとは異なる、新たな三成像を提示しました。
大谷吉継(山田孝之)
三成の親友として陣中に加わるのが、大谷吉継です。山田孝之は、常に冷静沈着で戦局を客観的に分析できる「もう一人の優れた能吏」として吉継を演じました。
彼は、忍城の地の利や、城兵の士気の高さをいち早く見抜き、三成に力攻めの危うさや水攻めの無謀さを的確に助言します。しかし、功を焦る三成は、その助言を「臆病風に吹かれたか」と一蹴してしまいます。
それでも吉継は三成を見捨てず、最後まで友人として、部将として彼を支え続けます。戦後、敗北感に打ちひしがれる三成に寄り添う吉継の姿は、二人の(のちの関ヶ原の戦いまで続く)固い友情を感じさせ、物語に深みを与えています。山田孝之の抑えた演技が、上地雄輔の情熱的な演技と見事な対比を生み出しています。
長束正家(平岳大)
三成、吉継と共に忍城攻めに加わる長束正家を演じたのは平岳大です。彼は豊臣政権の五奉行の一人となる有能な人物ですが、本作では「虎の威を借る狐」的な、傲慢で嫌味な武将として描かれています。彼が降伏勧告の使者として長親を侮辱しなければ、この戦は起こらなかったかもしれず、物語の重要な引き金となる役回りを見事に演じ切りました。
甲斐姫(榮倉奈々)ら忍城側のキャスト(佐藤浩市、山口智充、成宮寛貴)
主人公・長親を支える忍城側のキャスト陣も、日本映画界を代表する実力派俳優で固められており、それぞれが強烈な個性を放っています。
甲斐姫(榮倉奈々)
本作のヒロイン・甲斐姫を演じたのは榮倉奈々です。「東国無双の美人」と謳われる一方で、男勝りの武勇を誇る姫として、泥だらけの戦場を駆け巡ります。
彼女は、頼りない「のぼう様」こと長親に対して、最初は苛立ちを隠せません。「なぜ戦うと決めたのです!」と詰め寄るなど、城内で最も長親に反発する人物の一人です。しかし、戦いの中で、長親が持つ不思議な求心力と、民を想う深い優しさに触れ、次第に彼に惹かれていく姿が描かれています。戦場で敵兵を薙ぎ倒す勇ましさと、長親の前で見せる乙女らしい表情のギャップが、甲斐姫というキャラクターの魅力を高めています。
正木丹波守利英(佐藤浩市)
忍城側の「武」の象徴が、佐藤浩市演じる正木丹波守です。「漆黒の魔人」の異名を持ち、その武勇は豊臣軍にも知れ渡っています。彼は長親の幼馴染であり、家臣たちが長親を「でくのぼう」と侮る中で、唯一、彼の底知れない器の大きさを理解している人物です。
長親が「戦う」と決断した際も、丹波は即座に「承知」と応じ、忍城軍の精神的支柱となります。合戦シーンでの佐藤浩市の圧倒的な存在感と重厚な演技は、コメディ色の強い忍城の軍議を引き締め、物語に本格的な戦国時代の「凄み」を与えています。
柴崎和泉守(山口智充)
丹波とは対照的な「剛」の武将が、山口智充演じる柴崎和泉守です。考えるよりも先に体が動く豪傑で、丹波を一方的にライバル視しています。大槍を振り回して敵兵をなぎ倒す姿は痛快そのもの。彼の存在が、忍城側の「力強さ」を象徴しています。山口智充の持ち味であるパワフルさとコミカルさが、和泉守というキャラクターに完璧にマッチしていました。
酒巻靱負(成宮寛貴)
忍城側の「知」を担当する(はずの)が、成宮寛貴(当時)演じる酒巻靱負です。彼は「軍略の天才」を自称していますが、実際は戦の経験がない口先だけの若侍。軍議では常に的外れな策を披露し、丹波や和泉守に呆れられています。
しかし、彼は決して臆病者ではなく、長親の決断に従い、必死で自分の役割を果たそうとします。物語を通じて、口先だけの若者が本物の侍へと成長していく姿が描かれており、観客が感情移入しやすいキャラクターの一人となっています。
豪華すぎると話題のキャスト陣の魅力
『のぼうの城』は、主演・準主演級の俳優たちが、驚くような脇役で出演していることでも「キャストが豪華すぎる」と話題になりました。
- 豊臣秀吉(市村正親): 天下人・秀吉を演じたのは、日本を代表する舞台俳優・市村正親です。出演シーンは多くないものの、その圧倒的なカリスマと、底知れない恐ろしさ(「猿」と呼ばれる反面、冷徹な支配者である側面)を完璧に体現しました。長親と対面するラストシーンは、二人の「異質な王」の対峙として強烈な印象を残します。
- 珠(鈴木保奈美): 甲斐姫の継母的存在である珠を演じたのは、鈴木保奈美です。本作が『いちげんさん』以来、12年ぶりの映画復帰作となりました。凛とした佇まいと、城の女たちをまとめる強さを見事に表現しました。
- 和尚(夏八木勲): 長親の良き相談相手であり、戦の行方を見守る寺の和尚を演じたのは、名優・夏八木勲です。彼の深みのある声と佇まいが、物語に静かな重みを与えています。
- 成田泰季(平泉成): 長親の父。短い出演シーンながら、息子の「でくのぼう」ぶりを嘆きつつも、その本質を信じようとする父親の複雑な心情を演じました。
- たへえ(前田吟): 領民の代表格であるたへえを、国民的俳優・前田吟が演じました。彼が長親を心から慕う姿が、忍城の「民の力」を象徴しています。
- ちよ(尾野真千子): 当時、NHK連続テレビ小説『カーネーション』で主演を務め、人気絶頂だった尾野真千子が、領民の妻・ちよを演じました。
- ちどり(芦田愛菜): そして、日本中を席巻した天才子役・芦田愛菜が、領民の娘・ちどり役で出演。長親に無邪気に懐く姿が、守るべき日常の象徴として描かれています。
これだけの名優たちが脇を固めていることで、『のぼうの城』の世界観は圧倒的なリアリティと重厚感を持つに至りました。
【映画】『のぼうの城』キャスト・相関図・あらすじをネタバレしたら

チェックポイント
- 原作小説と映画版の違いやオリジナルの要素
- 「ひどい」「つまらない」という感想・評価は本当か?
- 石田三成の水攻めシーンの迫力と撮影の裏側
- 現在視聴可能な動画配信サービスと無料視聴の方法
- 史実とフィクションのバランス、歴史背景の解説
原作小説(和田竜)との違いは?映画オリジナルの展開
映画『のぼうの城』は、原作小説(和田竜著、小学館文庫)を基にしていますが、約145分という上映時間(当初は163分だったが編集された)に収めるため、いくつかの変更点や省略された要素があります。
1. キャラクターの背景描写の簡略化
原作小説(上下巻)では、長親、丹波、三成、吉継といった主要人物たちの過去や背景がより詳細に描かれています。例えば、丹波がなぜ長親に絶対の信頼を置くようになったのか、三成と吉継の友情がどう育まれたのかなど、彼らの人間性を深く理解するためのエピソードが豊富です。映画では、これらの多くが簡略化され、観客が直感的にキャラクターを把握できるように調整されています。
2. 石田三成の描写の違い
映画版の三成は、若く功を焦る、やや未熟な指揮官としての一面が強調されています。これは、主人公・長親の「無欲の勝利」を際立たせるための対比として効果的でした。
一方、原作小説での三成は、より多角的に描かれています。確かに若さゆえの焦りはありますが、同時に優れた能吏としての側面や、戦下手であることへのコンプレックス、そして吉継との深い信頼関係も丁寧に描写されています。映画版よりも「人間・石田三成」の苦悩が深く掘り下げられています。
3. 合戦シーンの取捨選択
原作では、映画で描かれた以外にも、忍城軍と豊臣軍による細かい攻防戦が多数描かれています。映画では、スペクタクルとしての見応えを重視し、丹波の騎馬鉄砲隊の活躍や和泉守の一騎当千ぶり、そしてクライマックスの水攻めと田楽踊りに焦点を絞っています。
4. クライマックスの展開
映画のクライマックスは「田楽踊り」→「長親狙撃」→「領民による堤破壊」→「水攻め失敗」→「小田原城落城の報せ」という流れで、忍城の「勝利」が決定的な形で描かれます。
原作でもこの流れはほぼ同じですが、映画ほどの劇的なカタルシスよりも、戦いの虚しさや、長親の不思議な「運」のようなものが強調されている側面もあります。
総じて、映画版は原作の持つエンターテイメント性を最大限に引き出し、特に長親のキャラクターと水攻めのスペクタクルを際立たせる形で再構成されていると言えます。
主題歌・音楽(音楽:上野耕路)
映画『のぼうの城』には、特定の主題歌がエンディングで流れます。それは、日本のロックバンド、エレファントカシマシが本作のために書き下ろした楽曲「ズレてる方がいい」です。
この楽曲は、主人公・成田長親の「普通ではない」「ズレている」生き方を肯定し、称賛するような力強いメッセージが込められています。「でくのぼう」と呼ばれながらも、己の信念(あるいは無欲)を貫き、大軍を退けた長親の姿に、宮本浩次のソウルフルな歌声が重なり、映画のラストに深い余韻を残します。
一方、劇中の音楽(サウンドトラック)は、作曲家の上野耕路が担当しました。上野耕路は、映画、ドラマ、アニメ、CMなど幅広い分野で活躍する作曲家です。
『のぼうの城』では、壮大なオーケストラサウンドを駆使し、戦国時代の緊迫感、合戦の迫力、そして水攻めという未曾有のスペクタクルのスケール感を完璧に表現しました。特に、クライマックスの田楽踊りのシーンで流れる、どこかコミカルでありながらも神聖さを感じさせる楽曲は、野村萬斎の舞と一体となり、映画史に残る名シーンを生み出しました。
壮大な上野耕路の劇伴音楽と、ロックバンドによる力強い主題歌という組み合わせも、本作の「型破り」な魅力を象徴していると言えるでしょう。
ひどい?つまらない?映画の評価・感想レビュー
映画『のぼうの城』は、興行収入28.4億円の大ヒットを記録し、第36回日本アカデミー賞で多くの賞を受賞するなど、興行面・評価面で大きな成功を収めました。多くの観客からは「痛快だった」「感動した」「野村萬斎が素晴らしかった」と絶賛の声が寄せられました。
しかし、その一方で、一部の観客やレビューサイトでは「ひどい」「つまらない」といったネガティブな評価も存在します。なぜ、これほど評価が分かれたのでしょうか。その理由を分析します。
1. 石田三成の描写への賛否
最も大きな要因は、石田三成(上地雄輔)の描かれ方にあるでしょう。本作の三成は、功を焦り、プライドが高く、親友の助言も聞き入れない「未熟な若者」として描かれています。
歴史ファン、特に石田三成に「冷静沈着な能吏」「義に厚い武将」というイメージを持つ人々にとって、この描写は「三成を無能に描きすぎている」「上地雄輔の演技が軽すぎる」と受け取られ、「ひどい」という評価に繋がったと考えられます。これは、長親を際立たせるための意図的な演出でしたが、従来の三成像とのギャップが大きすぎたため、強い反発を招いた側面があります。
2. 史実との違い(特に田楽踊り)
本作のクライマックスである「田楽踊り」や「領民による堤の破壊」は、原作・映画による完全なフィクション(創作)です。史実の忍城攻防戦をベースにしているだけに、このあまりに劇的な展開が「荒唐無稽すぎる」「ご都合主義だ」と感じた観客もいたようです。リアリティのある歴史映画を期待していた層にとっては、「つまらない」と感じる要因になった可能性があります。
3. コメディとシリアスのバランス
本作は、靱負のコミカルな軍議や、長親の飄々とした振る舞いなど、コメディ要素が随所に散りばめられています。一方で、合戦シーンや水攻めの描写は非常にシリアスかつ壮絶です。この「コメディ」と「シリアス」の緩急が「面白い」と感じる人もいれば、「ふざけすぎている」「中途半端だ」と感じる人もおり、好みが分かれるポイントとなりました。
4. 野村萬斎の演技への賛否
多くの人が絶賛した野村萬斎の演技ですが、その独特の所作や発声(狂言由来)が、「映画の演技としては浮いている」「舞台っぽすぎる」と感じた人も一部にいたようです。
これらの点を総合すると、『のぼうの城』は、史実をベースにした「歴史エンターテイメント」として振り切った作品です。そのため、史実の忠実な再現や、重厚な歴史ドラマを求める層とはミスマッチが起こり、「ひどい」「つまらない」という評価が生まれたと考えられます。逆に言えば、痛快なスペクタクル活劇として楽しみたい観客にとっては、最高の映画体験となったのです。
無料動画はどこで見れる?配信サービス一覧(U-NEXT、DMM TV、Prime Videoなど)
映画『のぼうの城』は、2025年10月現在、複数の動画配信サービス(VOD)で視聴することが可能です。多くの場合、月額料金内で見放題、または個別課金のレンタルで提供されています。
以下は、主な配信サービスでの状況をまとめたものです。
- U-NEXT(ユーネクスト): 見放題配信中
- 31日間の無料トライアル期間があり、期間中に解約すれば料金はかかりません。無料トライアル登録時にもらえる600円分のポイントを使えば、新作映画のレンタルなども可能です。
- DMM TV: 見放題配信中
- 30日間の無料トライアル期間があります。アニメやエンタメ系に強いサービスですが、『のぼうの城』のような邦画大作も豊富です。
- Amazon プライム・ビデオ (Prime Video): 見放題配信中
- Amazonプライム会員(30日間の無料トライアルあり)であれば、追加料金なしで視聴可能です。
- Lemino(レミノ): 見放題配信中
- NTTドコモが提供するサービスで、初回初月無料トライアル(契約日によって無料期間が異なる場合あり)が利用できます。
- TSUTAYA DISCAS(ツタヤ ディスカス):
- 動画配信ではなく、DVD/Blu-rayの宅配レンタルサービスです。月額プラン(定額レンタル8など)には無料トライアル期間があり、旧作・準新作が借り放題です。『のぼうの城』も対象となっています。
ご注意ください
上記の情報は2025年10月時点のものです。配信状況(見放題、レンタル、配信終了など)は、各サービスの方針によって予告なく変更される場合があります。
視聴前には、必ず各動画配信サービスの公式サイトで最新の配信状況をご確認ください。
DVD・Blu-rayのリリース情報
映画『のぼうの城』のDVDおよびBlu-rayは、劇場公開の約半年後、2013年5月2日に発売されました。
主なラインナップは以下の通りです。
- 『のぼうの城』 通常版(DVD / Blu-ray)
- 本編ディスクのみのシンプルな構成です。本編のほか、劇場予告編やTVスポット集、オーディオ・コメンタリー(犬童一心監督、樋口真嗣監督、野村萬斎、佐藤浩市)などが収録されています。
- 『のぼうの城』 豪華版(DVD / Blu-ray)
- 完全初回限定生産で、本編ディスクに加え、豊富な特典映像を収録したボーナスディスクが付属する豪華仕様です。
- 主な特典映像:
- メイキング映像(北海道での大規模ロケの様子、水攻めシーンの裏側など)
- 未公開シーン集(編集でカットされた貴重な映像)
- イベント映像集(完成披露試写会、初日舞台挨拶など)
- 特番(公開時に放送されたプロモーション番組)
- 豪華版は、特製のアウターケースやブックレットも封入されており、ファン必携のアイテムとなっています。
現在は初回限定生産の豪華版は入手困難になっている可能性がありますが、通常版や中古市場などで購入・レンタルすることが可能です。特に豪華版のメイキング映像は、あの壮大な水攻めシーンがどのように撮影されたかを知ることができる貴重な資料となっています。
興行収入と受賞歴
映画『のぼうの城』は、興行面でも評価面でも、2012年を代表する邦画作品の一つとなりました。
興行収入
2012年11月2日に公開されると、その壮大なスケールと野村萬斎のユニークな主人公像が話題を呼び、幅広い客層を動員しました。
最終的な興行収入は28.4億円を記録。これは2012年に公開された日本映画の中で上位に入る大ヒットとなりました。TBS開局60周年記念作品という看板に相応しい成功を収めました。
主な受賞歴
その年の映画賞レースでも高く評価され、特に技術部門での受賞が目立ちました。
第36回日本アカデミー賞(2013年)
- 最優秀美術賞: 磯田典宏 / 近藤成之
- 優秀作品賞
- 優秀監督賞: 犬童一心 / 樋口真嗣
- 優秀主演男優賞: 野村萬斎
- 優秀助演男優賞: 佐藤浩市
- 優秀音楽賞: 上野耕路
- 優秀撮影賞: 清久素延 / 江原祥二
- 優秀照明賞: 杉本崇
- 優秀録音賞: 志満順一
- 優秀編集賞: 上野聡一
合計10部門で優秀賞を受賞し、そのうち美術賞(北海道に建設された巨大オープンセットなど)で最優秀賞を獲得しました。このことからも、本作の持つ圧倒的なスケールと世界観の構築が、専門家からも高く評価されたことがわかります。
ロケ地・撮影場所(忍城の再現、北海道の巨大オープンセット)
映画『のぼうの城』の最大の魅力の一つである「壮大なスケール感」、特にクライマックスの「水攻め」シーンは、驚くべき方法で撮影されました。
ロケ地: 北海道 苫小牧市
本作の撮影は、実際の忍城(埼玉県行田市)ではなく、主に北海道苫小牧市で行われました。
なぜ北海道だったのか?それは、あの「水攻め」をCGだけに頼らず、実際に水を大量に使って撮影するためでした。
巨大オープンセット
苫小牧市には、なんと東京ドーム約20個分(約99万平方メートル)という広大な敷地に、忍城(御三階櫓)や城下町、そして石田堤の一部を含む巨大なオープンセットが建設されました。これは、当時の日本映画としては史上最大級の規模です。
このセットがあったからこそ、合戦シーンでの兵士たちの動きや、城下町のリアルな生活感を表現することができました。
圧巻の水攻めシーンの撮影
樋口真嗣監督が担当したスペクタクルシーンの白眉が、水攻めです。
セットに築かれた堤の一部を実際に決壊させ、総計3000トンもの水を流し込むという、前代未聞の撮影が敢行されました。
10メートルの高さに設置された装置から、一度に18トンの水が放出され、濁流が城下町や豊臣軍の陣地を襲うシーンは、CGでは決して表現できない「本物の水」の迫力と恐怖をスクリーンに焼き付けました。
この壮絶な撮影は、製作費の高騰(当初の予算を大幅に超えた)というリスクを伴いましたが、結果として『のぼうの城』を他の歴史映画とは一線を画す、唯一無二のスペクタクル大作へと昇華させました。
エキストラも、苫小牧市や札幌市、そして舞台となった埼玉県の行田市などから、延べ4000人が参加し、壮大な戦国時代の合戦絵巻を彩りました。
史実との違い・歴史的背景
『のぼうの城』は、史実の「忍城の戦い」を基にしていますが、映画としてのエンターテイメント性を高めるために、大胆なフィクション(創作)が加えられています。
歴史的背景: 小田原征伐
天正18年(1590年)、豊臣秀吉は、唯一服従しなかった関東の雄・北条氏を滅ぼすため、「小田原征伐」を開始します。北条氏政・氏直親子が籠城する小田原城を20万の大軍で包囲する一方、関東各地にある北条方の支城(八王子城、鉢形城、忍城など)にも攻略軍を派遣しました。
石田三成が忍城攻めを命じられたのは、この流れの中での出来事です。
史実の「忍城の戦い」
- 籠城戦: 成田氏長が小田原城へ向かったため、城代・成田長親が500の兵と領民約3000で籠城したのは史実です。
- 水攻め: 石田三成が、備中高松城の故事に倣い、忍城の周囲に堤(石田堤)を築き、水攻めを行ったのは史実です。この堤の遺構は、現在も埼玉県行田市に一部残されています。
- 落城しなかった: 忍城は、三成の水攻めにも耐え、本城である小田原城が7月に開城するまで持ちこたえました。北条方の支城が次々と陥落する中で、唯一落城しなかった城として知られています。
映画と史実の主な違い(フィクション)
- クライマックスの田楽踊り:映画最大のクライマックスである、長親が堤の前で田楽踊りを舞い、敵兵まで魅了するシーンは、**和田竜による完全な創作(フィクション)**です。史実にこのような記録はありません。これは、長親の「人気」という武器を視覚化した、最大のエンターテイメント的脚色です。
- 領民による堤の破壊:長親の狙撃に怒った領民が、素手で石田堤を破壊し、水攻めが失敗に終わるという展開も、フィクションです。史実では、堤の完成後、大雨によって自然に決壊し、濁流が豊臣軍を襲ったとされています(あるいは、忍城側が夜陰に乗じて堤を破壊したという説もありますが、映画のような昼間の決起ではありません)。
- 石田三成の描写:前述の通り、映画での三成は「未熟な若者」として描かれていますが、史実の三成がここまで短慮であったかは議論の分かれるところです。水攻め自体は秀吉の指示であったとも言われており、映画は三成のキャラクターを意図的に造形しています。
- 開城の経緯:映画では、水攻め失敗(忍城の事実上の勝利)の直後に小田原落城の報せが届き、長親が誇りを保ったまま開城します。史実でも小田原落城後に開城したのは同じですが、そのタイミングや交渉の詳細は、映画ほど劇的ではなかったとされています。
このように、『のぼうの城』は「忍城が水攻めに耐え、落ちなかった」という史実の骨格をベースに、長親というユニークな主人公の魅力を最大限に引き出すため、大胆なフィクションを加えて再構築された「歴史エンターテイメント」作品なのです。
【映画】『のぼうの城』キャスト・相関図・あらすじのネタバレまとめ
- 『のぼうの城』は2012年に公開された日本の歴史スペクタクル映画。
- 原作は和田竜の同名ベストセラー小説で、2009年本屋大賞2位。
- 監督は犬童一心と樋口真嗣。
- 主演は野村萬斎が務め、主人公・成田長親を演じた。
- 成田長親は「のぼう様(でくのぼうの意)」と呼ばれ領民に慕われる不思議な魅力を持つ城代。
- 物語は豊臣秀吉の天下統一目前、小田原征伐が舞台。
- 北条勢の支城である忍城(おしじょう)での戦いを描く。
- 石田三成率いる2万の豊臣軍に対し、わずか500の兵(と領民)で立ち向かう。
- 石田三成が実行した日本戦史上名高い「水攻め」が大きな見どころの一つ。
- キャストは「豪華すぎる」と話題になった。
- 忍城側は佐藤浩市(正木丹波守)、山口智充(柴崎和泉守)、成宮寛貴(酒巻靱負)、榮倉奈々(甲斐姫)らが固める。
- 豊臣軍側も上地雄輔(石田三成役)、山田孝之(大谷吉継役)、平岳大(長束正家役)、市村正親(秀吉役)らが出演。
- 相関図は、忍城側(長親と家臣・領民)と豊臣軍側(三成と吉継ら)の対立構造が中心。
- あらすじは、圧倒的兵力差にもかかわらず長親が「戦いまする」と宣言し、奇策(田楽踊り)で豊臣軍を翻弄する展開。
- 映画は史実に基づきつつ、和田竜によるエンターテイメント性の高い脚色(田楽踊りなど)が加えられている。
- 興行収入は28.4億円を超える大ヒットを記録した。
- 動画配信サービス(U-NEXT、DMM TV、Amazonプライム・ビデオなど)で見放題またはレンタル配信中(最新情報は要確認)。
- 評価は「面白い」という声が多い一方、「石田三成の描写がひどい」といった賛否両論な側面もある。
- 撮影は北海道・苫小牧に東京ドーム約20個分の巨大なオープンセットを組んで行われた。
- 主題歌はエレファントカシマシの「ズレてる方がいい」。
映画『のぼうの城』は、「でくのぼう」と呼ばれた一人の男が、最強の軍団を相手に唯一無二の「人気」という武器で立ち向かった、痛快な歴史エンターテイメントです。野村萬斎の圧巻のパフォーマンス、豪華キャストの競演、そして日本映画史に残る壮大な水攻めシーンは、一見の価値があります。史実との違いを知った上で観ると、さらに深く楽しめることでしょう。ぜひこの機会に、各配信サービスなどでご覧になってはいかがでしょうか。
参照元URL
- アスミック・エース(配給会社)|『のぼうの城』作品情報: https://www.asmik-ace.co.jp/works/lineup/1293
- 行田市観光協会|忍城址(行田市郷土博物館): https://www.gyoda-kankoukyoukai.jp/spot/530
- 映画.com|のぼうの城 作品情報: https://eiga.com/movie/55578/