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湊かなえ『物語のおわり』のあらすじを解説

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©︎ 湊かなえ/朝日新聞出版 『告白』や『Nのために』など、人間の心の闇を鋭く描き、「イヤミス(後味の悪いミステリー)」の女王として知られる湊かなえ。しかし、今回ご紹介する『物語のおわり』は、そんな彼女のイメージを心地よく裏切る、心温まる一冊です。物語の舞台は、広大な自然が広がる北海道。人生の岐路に立ち、悩みを抱えた人々が、偶然手に取った一つの「結末のない物語」を巡って、自身の人生を見つめ直し、新...

湊かなえ『物語のおわり』のあらすじを解説のワンシーン
©︎ 湊かなえ/朝日新聞出版

『告白』や『Nのために』など、人間の心の闇を鋭く描き、「イヤミス(後味の悪いミステリー)」の女王として知られる湊かなえ。しかし、今回ご紹介する『物語のおわり』は、そんな彼女のイメージを心地よく裏切る、心温まる一冊です。物語の舞台は、広大な自然が広がる北海道。人生の岐路に立ち、悩みを抱えた人々が、偶然手に取った一つの「結末のない物語」を巡って、自身の人生を見つめ直し、新たな一歩を踏み出す姿を描いた連作短編集です。

人から人へとリレーされるように受け継がれていく謎の原稿『空の彼方』。その結末を、登場人物たちはそれぞれの境遇に重ね合わせながら想像していきます。それはまるで、読者である私たち自身に「あなたなら、どんな結末にしますか?」と問いかけているかのようです。湊かなえが紡ぐ、優しさに満ちた物語の世界へ、本記事がご案内します。

  • 湊かなえが描く、イヤミスではない心温まる連作短編集
  • 北海道を舞台に、結末のない小説『空の彼方』が人々の手を巡る物語
  • 人生の岐路に立つ登場人物たちが、小説の結末を考えることで自身の道を見出す
  • リレー形式で繋がれていく物語と、最後に明かされる真実
  • 読者自身も「自分ならどんな結末にするか」を問われる構成

【小説】湊かなえ『物語のおわり』のあらすじ

湊かなえ『物語のおわり』のあらすじを解説のワンシーン
作成:あらすじマスター.com
  • 結末のない物語が、人々の心を繋ぎ、未来を照らす
  • 北海道の雄大な自然が、登場人物たちの心を癒し、包み込む
  • 作中に登場する様々な「物語」と、その終わりが問いかけるもの
  • 湊かなえ作品ならではの、巧みな構成と伏線回収
  • 読後、温かい感動と前向きな気持ちになれる優しい物語

『物語のおわり』とは?基本情報と作品のテーマ

『物語のおわり』は、2014年10月に朝日新聞出版から単行本が刊行され、2018年1月には朝日文庫から文庫版が発売された、湊かなえによる小説です。本作は、一つの未完の物語を軸に、章ごとに主人公が交代していく連作短編形式で構成されています。

物語の大きなテーマは「再生」と「継承」です。登場人物たちはそれぞれ、病、夢の挫折、家族との確執、過去への後悔といった、人生における様々な困難や悩みを抱えています。そんな彼らが、雄大な自然を持つ北海道を旅する中で、偶然『空の彼方』という結末の書かれていない原稿に出会います。この物語の結末を自分なりに想像し、紡いでいく過程で、彼らは自身の問題と向き合い、凝り固まった心を解きほぐし、未来へ向かうための小さな光を見出していきます。

一つの物語が、血の繋がりも関係もない人々の間を巡り、それぞれの人生に寄り添い、そして静かに受け継がれていく。その過程を通して、人と人との繋がりの温かさや、物語が持つ力の大きさを描き出しているのが、本作の最大の特徴と言えるでしょう。これまでの湊かなえ作品に見られるような、人間の悪意やどんでん返しを期待する読者にとっては意外な作品かもしれませんが、静かで深い感動が心に残る、珠玉の一作です。

結末のない小説『空の彼方』という作中作

本作の物語を動かす最も重要な仕掛けが、作中作である結末のない小説『空の彼方』です。この原稿は、各章の主人公から次の主人公へと、まるで駅伝の襷のように手渡されていきます。

『空の彼方』のあらすじは、山間の小さな町でパン屋を営む両親のもとで育った少女・絵美が主人公。彼女は小説家になることを夢見ていますが、両親や婚約者である「ハムさん」は、その夢に反対しています。そんなある日、絵美のもとに著名な作家から弟子にならないかという誘いが舞い込みます。夢を諦めきれない絵美は、置き手紙を残し、こっそりと町を出ていこうと駅へ向かいます。しかし、駅のホームには、彼女の決意を知っていたかのように、婚約者のハムさんが待っていました。

物語は、この最も緊張感が高まる場面でぷつりと途切れており、その後の展開は一切書かれていません。絵美は夢を追って東京へ行くのか、それとも婚約者と共に地元に残るのか。この選択の行方が、原稿を読んだ人々の手に委ねられます。

この「結末のなさ」こそが、読んだ人々の想像力を掻き立てる鍵となります。彼らは、主人公・絵美の姿に自分自身の境遇を重ね合わせ、「自分だったらどうするか」という視点で物語の続きを考えます。その思索の過程が、結果的に自分自身の人生の「物語」の結末を考えるきっかけとなり、前へ進むための原動力となっていくのです。

登場人物一覧と、それぞれの悩みや背景

『物語のおわり』には、様々な立場の登場人物たちが登場し、それぞれが『空の彼方』の物語をリレーしていきます。ここでは、主要な登場人物と彼らが抱える悩みを紹介します。

  • 笹口智子(ささぐち ともこ)第1章「過去からの使者」の主人公。妊娠3ヶ月のときに癌が発覚。かつて同じ病で亡くなった父との思い出の地である北海道を、生まれてくる我が子との思い出作りのために旅している。フェリーで出会った萌という少女から『空の彼方』を受け取る。
  • 柏木拓真(かしわぎ たくま)第2章「花咲く丘」の主人公。プロの写真家になる夢を持っていたが、父の死により実家のかまぼこ工場を継ぐことを決意。夢を諦めるための区切りとして、写真家を目指すきっかけとなった富良野や美瑛を訪れている。智子から『空の彼方』を渡される。
  • 芝田綾子(しばた あやこ)第3章「ワインディング・ロード」の主人公。テレビ番組の制作会社への就職が内定している大学4年生。大学最後の夏休みに、自転車で北海道をツーリングしている。将来への漠然とした不安や、別れた恋人への思いを抱えている。拓真から『空の彼方』を受け取る。
  • その他にも、様々な人物が登場娘との関係に悩む父親、学生時代の恋愛を引きずるキャリアウーマンなど、各章で魅力的な人物たちが登場し、『空の彼方』のバトンを繋いでいきます。
  • 大場萌(おおば もえ)と祖母物語の導入と結末で重要な役割を果たす少女とその祖母。彼女たちがなぜ『空の彼方』を持っているのかが、物語の最後に明かされる大きな謎となっています。

これらの登場人物たちは、年齢も性別も職業もバラバラですが、誰もが人生の転機に立ち、迷いや葛藤を抱えています。だからこそ、読者は誰かしらに共感し、その物語に引き込まれていくのです。

物語の舞台となる北海道の美しい風景描写

本作のもう一つの主役と言えるのが、物語の舞台となる北海道の雄大な自然です。湊かなえの筆致は、まるで読者も一緒に旅をしているかのような臨場感で、北の大地の風景を生き生きと描き出します。

フェリーが着く小樽の港、ラベンダーが咲き誇る富良野の丘、パッチワークのような美瑛の畑、神秘的な摩周湖、そして物語の最後に重要な意味を持つことになる知床の原生林。これらの美しい風景は、単なる背景にとどまりません。登場人物たちが抱える悩みや心の傷を優しく包み込み、癒していく、大きな存在として描かれています。

例えば、夢を諦めようとする拓真が美瑛の丘でカメラを構えるシーンでは、その広大な景色が彼の閉塞感を解き放ち、新たな視点を与えるきっかけとなります。また、人生の終焉を意識する智子が、父との思い出の地を巡る旅路は、北海道の自然の生命力とコントラストを成し、生と死について深く考えさせられます。

物語を読み終えた後には、きっと北海道を訪れたくなるでしょう。それほどまでに、本作における風景描写は鮮やかで、物語の世界観と分かちがたく結びついています。登場人物たちの心の軌跡を追いながら、北海道の美しい景色に思いを馳せるのも、この作品の楽しみ方の一つです。

人から人へ、物語が繋がっていくリレー形式の構成

『物語のおわり』は、各章で視点人物が入れ替わり、前の章の主人公が次の章の主人公に『空の彼方』の原稿を手渡すという、リレー形式で物語が進行します。この構成が、本作の大きな魅力となっています。

前の章では主役だった人物が、次の章では脇役として少しだけ登場する。こうした人物の繋がりが、物語全体に緩やかな一体感と温かい連帯感を生み出しています。彼らは直接的な知り合いではありませんが、「結末のない物語」という一つのバトンを通して、間接的に互いの人生に影響を与え合っているのです。

このリレー形式は、物語が持つ「伝播する力」を象徴しているとも言えます。一つの物語が、作者の手を離れ、様々な読者の解釈を経て、新たな意味や価値を持って広がっていく。その様子が、北海道という広大な舞台で、人から人へと手渡される原稿の旅路に重ねられています。

読者は、それぞれの章で新たな主人公の人生を覗き見ながら、同時に「あの後、前の主人公はどうなったのだろう」と想像を膨らませることになります。章が進むごとに、登場人物たちの相関図が頭の中で少しずつ繋がっていき、物語の全体像が見えてくる。この巧みな構成が、読者を飽きさせることなく、最後まで物語の世界に引き込みます。

各章の主人公と『空の彼方』との関わり

各章の主人公たちは、それぞれの人生の局面で『空の彼方』と出会い、その結末を自分なりに解釈します。その解釈は、彼らが置かれている状況や価値観を色濃く反映しており、非常に興味深いものとなっています。

例えば、癌を患い、父と同じ道を辿るかもしれない運命にある智子は、主人公・絵美に自分を重ね、彼女が夢を諦めて地元に残るという結末を想像します。それは、家族との時間を何よりも大切にしたいという、現在の彼女の心境の表れです。

一方、写真家の夢を諦めきれない拓真は、絵美が夢を追いかけて東京へ行く結末を強く望みます。それは、自分にはできなかった選択を絵美に託し、夢を追いかけることの尊さを再確認したいという彼の願いが込められています。

テレビ局への就職を控え、これから社会に出る綾子は、より現実的な視点から、夢と現実を両立させる第三の道はないかと考えます。

このように、『空の彼方』は、読む人の心を映し出す鏡のような役割を果たします。主人公たちは、絵美の物語の結末を考えることを通して、無意識のうちに自分自身の人生の物語の結末、つまり「これからどう生きていきたいか」を自問自答しているのです。そして、自分なりの答えを見つけたとき、彼らはその原稿を、次に必要としているであろう誰かへと手渡していくのです。

最後に明かされる『空の彼方』の本当の結末と作者の正体

物語は、様々な人々の手を巡り、最終章「旅路の果て」で、ついにその核心へと迫ります。この章では、第1章で智子に原稿を渡した少女・と、その祖母が再び登場します。

そして、読者は驚きの事実を知ることになります。『空の彼方』の作者は、他ならぬ萌の祖母であり、物語の主人公・絵美その人だったのです。そして、絵美が駅で出会った婚約者「ハムさん」は、萌の祖父だったのでした。

では、あの駅でのシーンの後、絵美はどのような選択をしたのか。その「本当の結末」が、祖母の口から萌へと語られます。夢を追いかけるか、愛する人と共に生きるか。その二者択一の先に、彼女が見つけた答えとは何だったのか。

さらに、これまで『空の彼方』を読んできた登場人物たちが、実は過去に絵美(祖母)の人生とどこかで交差していたという事実も明らかになります。一見、偶然に見えた原稿のリレーは、実は見えない糸で繋がった人々の間を巡る、必然の旅だったのかもしれません。

すべての伏線が回収され、物語が美しく収束していくラストは、感動的です。一つの物語が終わり、そしてまた新たな物語が始まっていく。その連鎖こそが人生なのだと、優しく教えてくれるような結末が待っています。

【小説】湊かなえ『物語のおわり』のあらすじを理解したら

湊かなえ『物語のおわり』のあらすじを解説のワンシーン
作成:あらすじマスター.com
  • 作中作『空の彼方』の本当の結末と、登場人物たちのその後の人生
  • 「イヤミスの女王」のイメージを覆す、温かく優しい作風への反響
  • 『告白』の衝撃、『Nのために』の切なさとは異なる、静かで深い感動
  • 物語の舞台を巡る、北海道「聖地巡礼」の楽しみ方
  • 湊かなえ作品の新たな魅力を発見し、ファンならずとも楽しめる一冊

ネタバレあり:各章の結末と登場人物たちの選択

『物語のおわり』の各章で、『空の彼方』を受け取った登場人物たちは、自分なりの結末を想像し、そして自らの人生の一歩を踏み出します。ここでは、各章の結末と彼らの選択をネタバレありで解説します。

  • 第1章「過去からの使者」:笹口智子の選択癌を宣告された妊婦の智子は、『空の彼方』の絵美が夢を諦め、婚約者と地元で暮らす結末を選びます。彼女は、父が自分との時間を選んでくれたように、生まれてくる子との限られた時間を大切に生きることを決意します。そして、美瑛の丘で出会った青年・拓真に、父の形見のカメラを託し、『空の彼方』の原稿を渡します。彼女の選択は、死の恐怖の中に見出した「生」への強い意志の表れでした。
  • 第2章「花咲く丘」:柏木拓真の選択写真家の夢を断念した拓真は、絵美が夢を掴む結末を強く願います。智子からカメラを託された彼は、彼女とその子供のために写真を撮り続けることを決意。それは夢を完全に捨てるのではなく、形を変えて誰かのために写真を撮り続けるという、新たな道を見出した瞬間でした。彼は、自転車で旅する綾子に原稿を託します。
  • 第3-6章の登場人物たちの選択その後も原稿は、就職に悩む女子大生・綾子、娘との関係に悩む父親、過去の恋愛を引きずる女性など、様々な人々の手を渡り歩きます。彼らもまた、絵美の物語に自らを投影し、それぞれの問題と向き合い、小さな一歩を踏み出す勇気を得ていきます。
  • 最終章「旅路の果て」:絵美(祖母)が選んだ結末そして最後に明かされる『空の彼方』の真実。駅で婚約者のハムさんと再会した絵美は、彼に説得され、一度は地元に残ることを決めます。しかし、ハムさんは彼女の夢を諦めさせたくありませんでした。彼は「三年だけ待つ」と約束し、絵美を東京へと送り出したのです。その後、絵美は作家として成功はしなかったものの、編集者として物語に関わる仕事に就き、約束の三年後にハムさんと結婚したのでした。彼女は夢を完全に叶えたわけでも、完全に諦めたわけでもない。「夢を追いかける時間」と「愛する人と生きる時間」の両方を選び取ったのです。この結末は、人生の選択が常に二者択一ではないことを示唆しています。

読者の感想・レビュー(「イヤミスじゃない湊作品」としての評価)

『物語のおわり』は、湊かなえのパブリックイメージである「イヤミス」とは大きく異なる作風のため、読者の間では様々な感想が寄せられています。

肯定的な意見として最も多いのが、「心が温まった」「優しい気持ちになれた」というものです。「いつもの湊作品のようなドキドキハラハラはないけれど、読後に静かな感動が広がる」「読み終えた後、前向きな気持ちになれた」「北海道の美しい風景が目に浮かぶようで、旅行に行きたくなった」といった声が多く見られます。特に、物語がリレー形式で繋がっていき、最後に全ての伏線が回収される構成の巧みさを絶賛する声は後を絶ちません。イヤミスが苦手で湊作品を敬遠していた読者からも、「この作品で湊かなえのイメージが変わった」「こういう話も書ける作家さんなんだと知れてよかった」と、新たなファン層を獲得しています。

一方で、従来の湊かなえ作品のファンからは、戸惑いや物足りなさを指摘する声も一部にはあります。「イヤミスを期待していたので、少し物足りなかった」「毒がない湊かなえは、少しパンチが弱い」「綺麗にまとまりすぎている印象」といった感想です。これは、湊かなえという作家に「人間の心の闇を暴く」という鋭い切れ味を期待する読者が多いことの裏返しと言えるでしょう。

しかし、全体としては肯定的な評価が圧倒的に多く、本作が湊かなえの新たな代表作の一つとして、多くの読者に愛されていることは間違いありません。本作は、湊かなえが持つ作家としての幅の広さ、そして物語を巧みに構築する卓越した技術を改めて証明した作品と言えるでしょう。

湊かなえの他作品との作風の違い

湊かなえの作品世界は、大きく二つの系統に分けることができます。一つは、デビュー作『告白』に代表されるような、人間の悪意、嫉妬、復讐心といった負の感情を徹底的に描き、読者を震撼させる「イヤミス」の系統。そしてもう一つが、本作『物語のおわり』や『山女日記』『花の鎖』のように、過酷な状況の中でも希望や再生、人と人との絆を描く、温かみのある系統です。

『物語のおわり』は、後者の系統を代表する作品と言えます。本作には、他者を陥れようとするような明確な悪意を持つ人物はほとんど登場しません。登場人物たちは皆、自身の内面にある弱さや悩みと向き合っているのであり、その葛藤は非常に人間的で、共感を呼びます。

また、物語の結末も大きく異なります。『告白』や『Nのために』のような作品では、事件の真相が明らかになることで、新たな悲劇や救いのない現実が突きつけられることが多く、読後に重い余韻を残します。一方、『物語のおわり』の結末は、すべての物語が美しく収束し、登場人物たちが未来へ向かって歩き出す、希望に満ちたものとなっています。読後感が非常に爽やかで、前向きな気持ちになれるのが最大の違いです。

もちろん、どちらの系統の作品にも、湊かなえならではの巧みなプロット、伏線の張り方、そして人間の心理に対する深い洞察といった共通の魅力があります。『物語のおわり』は、湊かなえのダークな世界観に触れてきた読者にとって、その作風の幅広さに驚かされる一冊であり、また、これから湊かなえ作品を読んでみようという入門者にとっても、非常に入りやすい作品と言えるでしょう。

『告白』や『Nのために』とは異なる魅力

衝撃的なデビュー作『告白』は、娘を殺された教師の冷徹な復讐劇を通して、少年犯罪や教育現場の闇をえぐり出しました。複数の視点から事件を語らせることで真相が徐々に明らかになる手法は、多くの読者に衝撃を与えました。一方、『Nのために』は、ある殺人事件を軸に、登場人物たちの「N」に対する愛情が複雑に絡み合い、切ない悲劇を生んでいく様を描いたミステリーです。どちらの作品も、人間の「業」や「罪」といった重いテーマを扱い、読者の心を深く揺さぶります。

これに対し、『物語のおわり』の魅力は、「癒し」と「救い」にあると言えるでしょう。本作の登場人物たちも、過去の罪悪感や後悔に苛まれていますが、物語は彼らを断罪するのではなく、優しく寄り添い、再生への道筋をそっと照らし出します。

その役割を担うのが、作中作『空の彼方』と、北海道の雄大な自然です。結末のない物語は、彼らに「もし違う選択をしていたら」という想像の余地を与え、凝り固まった心を解きほぐします。そして、広大な空や大地は、彼らが抱える悩みがちっぽけなものであるかのように感じさせ、心を浄化していくのです。

『告白』や『Nのために』が、人間の心の深淵を覗き込むようなスリルと緊張感に満ちているとすれば、『物語のおわり』は、傷ついた心にそっと寄り添うカウンセラーのような優しさに満ちています。刺激的な読書体験を求めるなら前者、心を穏やかにしたいと願うなら後者がおすすめです。どちらも湊かなえの紛れもない傑作であり、その異なる魅力を味わうことで、作家・湊かなえの世界をより深く理解することができるでしょう。

物語の聖地・北海道のロケ地巡り

『物語のおわり』を読んで、作中に登場した北海道の美しい風景を実際に訪れてみたい、と感じた読者も多いのではないでしょうか。本作は、具体的な地名が多く登場するため、登場人物たちの足跡を辿る「聖地巡礼」の旅を楽しむことができます。

  • 小樽・富良野・美瑛物語の序盤に登場するこれらの地域は、北海道観光の定番でもあります。智子がフェリーで降り立った小樽港、拓真が夢と決別するために訪れたファーム富田などのラベンダー畑、そして美しい丘が連なる美瑛の「パッチワークの路」。これらの場所を訪れれば、智子や拓真の心境に思いを馳せることができるでしょう。
  • 摩周湖・屈斜路湖・阿寒湖物語中盤の舞台となる道東エリア。霧の発生で知られ、「霧の摩周湖」として有名な摩周湖は、作中でも重要なシーンで登場します。その神秘的な雰囲気は、登場人物たちの心の揺れ動きを象徴しているかのようです。
  • 知床物語のクライマックスで、萌と祖母が旅をするのが世界自然遺産にも登録されている知床です。手つかずの原生林や野生動物が息づく雄大な自然は、物語のフィナーレにふさわしい壮大なスケール感を与えています。特に、知床五湖やオシンコシンの滝などは、訪れる価値のあるスポットです。

これらの場所を実際に訪れることで、小説の世界観をより深く体感することができます。物語のシーンを思い浮かべながら、登場人物たちが何を感じ、何を思ったのかを想像する旅は、きっと忘れられない思い出になるはずです。旅の前に小説を再読し、地図を片手に自分だけの聖地巡礼プランを立ててみてはいかがでしょうか。

文庫版と単行本の情報

『物語のおわり』は、現在、単行本と文庫本の両方が刊行されています。

  • 単行本
    • 出版社:朝日新聞出版
    • 発売日:2014年10月7日
    • ページ数:360ページ
    • 定価:1,650円(税込)
    • 装丁も美しく、湊かなえ作品をコレクションしている方や、プレゼントとして贈りたい方におすすめです。
  • 文庫本
    • 出版社:朝日文庫
    • 発売日:2018年1月5日
    • ページ数:400ページ
    • 定価:704円(税込)
    • 単行本に比べて手頃な価格で、持ち運びにも便利なので、気軽に作品を楽しみたい方や、旅行のお供にしたい方にぴったりです。巻末には、書評家・吉田大助氏による解説が収録されており、作品をより深く理解するための手助けとなります。

内容は単行本、文庫本ともに同じです。お近くの書店やオンライン書店で手軽に購入することができます。まだ読んだことのない方は、ぜひ手に取ってみてください。

映像化の可能性と期待

2024年現在、『物語のおわり』の映像化(映画化やドラマ化)の情報は公式には発表されていません。しかし、読者の間では映像化を期待する声が非常に多く上がっています。

湊かなえの作品は、『告白』『Nのために』『リバース』『母性』など、数多くが映像化され、いずれも高い評価を得ています。そのため、本作も映像化の可能性は十分にあると考えられます。

もし映像化されるとなれば、最大の魅力となるのは、やはり北海道の壮大なロケーションでしょう。美しい四季折々の風景をスクリーンやテレビ画面で観ることができれば、物語の感動はさらに深まるはずです。

また、豪華なキャスト陣による演技も見どころになります。人生に悩む登場人物たちの繊細な心の機微を、実力派の俳優たちがどのように演じるのか、キャスティングを想像するだけでも楽しみが広がります。特に、物語の鍵を握る萌の祖母(絵美)役には、物語全体を支える説得力を持つベテラン女優が起用されることが期待されます。

物語の構成上、各章の主人公が次々と入れ替わるため、連続ドラマとしてじっくり描くのも面白いかもしれません。あるいは、オムニバス形式の映画として、それぞれの物語を丁寧に紡いでいくのも魅力的です。

いつか映像化が実現する日を心待ちにしながら、まずは原作の小説をじっくりと味わってみてはいかがでしょうか。

【小説】湊かなえ『物語のおわり』のあらすじのまとめ

  • 『物語のおわり』は湊かなえによる連作短編集。
  • 北海道を旅する人々が、結末のない小説『空の彼方』をリレーしていく物語。
  • 癌を患う妊婦、夢を諦めた青年など、様々な悩みを抱える人々が登場する。
  • 彼らは『空の彼方』の結末を自分なりに考えることで、自らの人生と向き合う。
  • 物語のバトンは次々と渡され、登場人物たちの人生が交錯していく。
  • 湊かなえの代名詞である「イヤミス」とは一線を画す、心温まる読後感が特徴。
  • 美しい北海道の情景描写が、物語に彩りと奥行きを与えている。
  • 作中作である『空の彼方』は、夢と現実の間で揺れる少女の物語。
  • 「あなたなら、どんな結末にしますか?」と読者自身に問いかける構成が秀逸。
  • 各章で語り手が変わり、多角的な視点から物語が描かれる。
  • 人生の選択や決断という普遍的なテーマを扱っている。
  • 登場人物たちのささやかな一歩が、大きな感動を呼ぶ。
  • 最終章で、すべての物語が一つに収束する構成は見事。
  • 『空の彼方』の作者とその後の人生も描かれる。
  • 人と人との繋がりの温かさを感じさせてくれる作品。
  • 旅先での出会いが人生を変える可能性を描いている。
  • 読書体験そのものの面白さを再認識させてくれる。
  • 湊かなえの新たな一面を発見できる一冊として評価が高い。
  • 文庫版も刊行されており、手に取りやすい。
  • 爽やかな感動を味わいたい読者におすすめの作品。

一つの物語には、必ず「おわり」があります。しかし、その物語を読んだ人の心の中では、新たな物語が始まり、続いていくのかもしれません。『物語のおわり』は、そんな読書という行為そのものが持つ、不思議な力を感じさせてくれる一冊です。ぜひ、あなた自身の結末を探す旅に出てみてください。

©︎ 湊かなえ/朝日新聞出版

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