
戦国時代の中国を舞台に、弱小国だった秦が天下統一への基盤を築く壮大な歴史ドラマ「大秦帝国」。始皇帝誕生以前の約100年間にわたる秦国の躍進を描いた本格歴史大作シリーズです。孫皓暉の同名小説を原作として、商鞅の変法から始まる秦国の変革を時系列で描く骨太な歴史ドラマとして、中国国内外で高い評価を獲得しています。
記事のポイント
・弱小国から強国へと変貌を遂げる秦国の歴史が詳細に描かれている
・商鞅の変法から始まる政治改革の過程が丁寧に表現されている
・全3シリーズ構成で秦の歴代君主の治世を時系列で追える
・史記に基づいた史実に忠実な脚本で歴史学習にも最適
・中国の演技派俳優陣による重厚で格調高い演技が見どころ
【中国ドラマ】『大秦帝国』のあらすじ

大秦帝国の時代背景と戦国七雄
『大秦帝国』の舞台は紀元前361年頃、戦国時代末期の中国大陸です。当時の中国は斉・楚・燕・趙・魏・韓・秦の七つの大国に分かれており、これらは「戦国七雄」と呼ばれていました。世界の歴史まっぷ
その中でも秦は西の辺境に位置する弱小国として、「犬も逃げ出す」と言われるほどの貧国でした。かつては穆公のような名君もいましたが、献公の即位前に長く贏氏一族の内紛が続き、国力が著しく弱体化していました。当時最強を誇っていた魏を中心に、楚・斉・趙・韓・燕に攻め立てられる日々が続いていたのです。
孝公と商鞅による秦の変法改革
秦の転機となったのは、21歳で即位した孝公(嬴渠梁)の決断でした。長年にわたる戦いで弱体化した秦を変革するため、孝公は「広く天下に賢人を募る」求賢令を発布します。この求賢令に応じて秦にやってきたのが、魏の出身で法家思想を学んだ書生・衛鞅(後の商鞅)でした。
衛鞅と孝公の出会いは運命的でした。衛鞅は戦に出ても貴族と違って報われない農民たちの暮らしを間近に見たことで、身分や先祖の功績にとらわれない、個人に対して厳格な法治による富国強兵を唱えました。孝公はこの革新的な思想に共鳴し、衛鞅を生涯の知己として国政改革を任せることにしたのです。
恵文王時代の縦横策と外交戦略
孝公の死後、息子の恵文王(嬴駟)の時代に入ると、秦国の外交政策は新たな展開を見せます。この時期に重要な役割を果たしたのが張儀の「連衡策」でした。張儀は各国を個別に秦と同盟を結ばせることで、他国同士の結束を阻止し、秦の優位性を確立しようとしました。
一方、蘇秦が唱えた「合縦策」は、六国が団結して秦に対抗するという外交戦略でした。この縦横家たちの駆け引きが、戦国時代の複雑な国際関係を形作っており、『大秦帝国 縦横 =強国への道=』では、こうした外交戦略の変遷が詳細に描かれています。
昭襄王の覇業と白起の軍事功績
第3シリーズ『昭王~大秦帝国の夜明け~』では、秦昭襄王(嬴稷)の治世が描かれます。昭襄王は在位56年という長期政権を築き、秦国の領土拡張と国力増強に大きく貢献しました。
この時代の最大の軍事的功績者が白起将軍です。白起は「戦神」と呼ばれるほどの軍事的天才で、長平の戦いでは趙軍40万人を殲滅するという戦国時代最大の勝利を収めました。しかし、その過酷な戦術は後に秦国自体の評判を悪化させる原因ともなりました。
秦の政治制度改革と中央集権化
商鞅の変法の核心は、従来の氏族制社会から中央集権的な君主制への転換でした。具体的な改革内容には以下のようなものがありました:
戸籍制度の整備:全国民を戸籍に登録し、国家が直接人民を把握できるようにしました。
什伍の制の導入:5戸を1伍、2伍を1什として組織し、相互監視体制を確立しました。
軍功爵制の確立:戦功によって爵位が決まる実力主義を導入し、血統による世襲制を廃止しました。
度量衡の統一:全国で統一された度量衡制度を確立し、商業の発展を促進しました。
郡県制の導入:従来の封建制に代わって、中央が直接任命する官吏による地方統治を確立しました。
六国統一への道程と戦略的布石
『大秦帝国』シリーズを通じて描かれるのは、秦国が段階的に六国統一の基盤を築いていく過程です。商鞅の変法により内政を整備し、張儀の外交戦略により国際的地位を向上させ、白起の軍事力により領土を拡大していく様子が詳細に描写されています。
特に重要なのは、秦国が単なる軍事的征服ではなく、制度改革による国力増強を重視していた点です。法治主義による公正な統治、実力主義による人材登用、効率的な行政システムの確立など、後の始皇帝による天下統一の基盤となる要素が着実に整備されていきました。
始皇帝時代への歴史的継承
『大秦帝国』シリーズの最終章『始皇帝 天下統一』(原題:大秦賦)では、ついに始皇帝嬴政による天下統一が描かれます。商鞅、張儀、白起らが築いた基盤の上に、呂不韋、李斯といった新たな人材が加わり、中国史上初の統一国家が樹立される過程が壮大なスケールで描写されます。
【中国ドラマ】『大秦帝国』のあらすじを理解したら

大秦帝国シリーズ全作品の視聴順序
『大秦帝国』シリーズは時系列順に視聴することが重要です。推奨される視聴順序は以下の通りです:
1. 大秦帝国(2009年) - 商鞅の変法と孝公の治世
2. 大秦帝国 縦横 =強国への道=(2012年) - 恵文王時代の外交戦略
3. 昭王~大秦帝国の夜明け~(2017年) - 昭襄王の覇業
4. 始皇帝 天下統一(2020年) - 始皇帝による天下統一
各シリーズは独立した作品として楽しめますが、通して視聴することで秦国の変遷をより深く理解できます。Hulu
大秦帝国キャスト陣の演技力と魅力
『大秦帝国』シリーズの最大の魅力の一つが、中国の実力派俳優陣による格調高い演技です。初作では侯勇(ホウ・ヨン)演じる孝公と王志飛(ワン・ジーフェイ)演じる商鞅のコンビが絶妙でした。
侯勇は国家一級演員という最高位の称号を持つ演技派俳優で、後に『人民の名義』でも印象的な演技を見せています。王志飛は商鞅の傲岸不遜さと深い知性を見事に表現し、古代の知識人の風格を見事に演じ切りました。豆瓣電影
女性キャストでは高圓圓(ガオ・ユエンユエン)演じる白雪が印象的です。商人の娘として逞しく生きる女性像を魅力的に演じ、商鞅との恋愛関係も説得力を持って描かれました。
大秦帝国と他の中国歴史ドラマとの比較
『大秦帝国』シリーズは他の中国歴史ドラマと一線を画すいくつかの特徴があります。まず、史実への忠実性が高く、孫皓暉による綿密な時代考証に基づいて制作されています。
エンターテインメント性よりも歴史的正確性を重視する姿勢は、『三国演義』や『水滸伝』といった古典文学を原作とするドラマとは異なる魅力があります。また、恋愛要素を抑制し、政治改革や軍事戦略に焦点を当てた骨太な構成も特徴的です。
大秦帝国の視聴方法と配信サービス情報
『大秦帝国』シリーズは現在、複数の動画配信サービスで視聴可能です。主要なサービスは以下の通りです:
Amazon Prime Video - レンタル配信(シーズン1)
Hulu - 見放題配信
FOD - フジテレビの動画配信サービス
Apple TV - レンタル配信
また、地上波ではBS日テレやBS11で不定期に放送されています。
大秦帝国縦横(シーズン2)のあらすじ解説
『大秦帝国 縦横 =強国への道=』は2012年に制作された第2シリーズです。秦恵文王嬴駟の治世を舞台に、張儀の「連衡策」と蘇秦の「合縦策」という相反する外交戦略の対立を描きます。
物語は商鞅の死後から始まり、新たな政治的課題に直面する秦国の姿が描かれます。恵文王は父孝公の遺志を継いで改革を継続しながらも、より現実的な外交政策を追求していきます。張儀という新たなキーパーソンの登場により、秦国の国際的地位は大きく向上していくのです。
昭王大秦帝国の夜明け(シーズン3)の見どころ
2017年制作の第3シリーズ『昭王~大秦帝国の夜明け~』は、秦昭襄王嬴稷の56年間にわたる長期政権を描きます。この時期の秦国は既に強国としての地位を確立しており、積極的な領土拡張政策を展開します。
最大の見どころは白起将軍の活躍です。長平の戦いでの趙軍殲滅など、戦国時代屈指の軍事的天才の活躍が詳細に描かれます。一方で、過度の軍事行動が他国の反発を招き、後の政治的困難の原因となる様子も描写されています。
始皇帝天下統一との関連性と歴史的連続性
『大秦帝国』シリーズの集大成となる『始皇帝 天下統一』は、前3作品で築かれた基盤の上に立つ物語です。商鞅の変法、張儀の外交、白起の軍事力といった歴代の功績が、ついに始皇帝による天下統一という形で結実します。
特に法治主義の理念は一貫してシリーズを通じて継承されており、李斯による政治改革も商鞅の変法の発展形として位置づけられています。中央集権的な統治システム、実力主義による人材登用、効率的な行政機構といった要素が、統一後の秦朝の基盤となったのです。
大秦帝国のロケ地と撮影セットの豪華さ
『大秦帝国』シリーズは中国各地の歴史的ロケ地で撮影されました。特に陝西省は秦の故地ということもあり、多くのシーンが撮影されています。兵馬俑で有名な西安周辺では、秦の宮殿シーンなどが撮影されました。
制作費5000万人民元という当時としては破格の予算により、精巧な時代考証に基づくセットが建設されました。衣装、建築、小道具に至るまで、戦国時代の雰囲気を忠実に再現する努力が払われており、視覚的な完成度の高さも作品の魅力の一つとなっています。
大秦帝国の評価と中国での人気度
『大秦帝国』シリーズは中国国内で極めて高い評価を獲得しています。特に第1作は飛天賞二等奖を受賞し、批評家からも「中国歴史ドラマの新たな到達点」として評価されました。新浪財経
視聴者からも「真正的历史剧」(本物の歴史ドラマ)として高く評価され、インターネット上での評価も一貫して高水準を維持しています。特に歴史愛好家や知識人層からの支持が厚く、中国の歴史ドラマ制作に大きな影響を与えました。
大秦帝国から学ぶ古代中国の政治思想
『大秦帝国』シリーズは単なる歴史エンターテインメントを超えて、古代中国の政治思想を深く学べる作品でもあります。特に法家思想の実践例として商鞅の変法を詳細に描いており、現代の政治学や行政学の観点からも興味深い内容となっています。
実力主義、法治主義、中央集権制といった概念が、古代中国でどのように発展し実現されていったかを具体的に理解できます。また、改革に伴う社会的摩擦や既得権益層との対立なども現実的に描かれており、政治改革の普遍的な課題についても考察を深めることができます。
【中国ドラマ】『大秦帝国』のあらすじのまとめ
- 弱小国秦が商鞅の変法により法治国家として生まれ変わる過程を描く壮大な歴史ドラマ
- 戦国時代の複雑な国際関係と外交戦略が史実に基づいて詳細に表現されている
- 歴代秦王の治世を通じて天下統一への基盤形成が段階的に描かれる歴史的連続性
- 史記などの史料に基づいた重厚なストーリーで中国古代史の理解が深まる教育的価値
- 侯勇、王志飛をはじめとする演技派俳優陣による格調高い演技が作品の品格を高めている
著作権情報
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原作:孫皓暉『大秦帝国』
監督:黄健中、延芸
制作年:2006年(企画開始)、2009年(放送開始)
『大秦帝国』シリーズは、中国古代史における最も重要な時代の一つである戦国時代から秦朝統一までを、史実に忠実でありながらドラマチックに描いた傑作です。政治改革、外交戦略、軍事戦術といった多角的な視点から描かれる物語は、現代の我々にも多くの示唆を与えてくれる価値ある作品といえるでしょう。